私のサイトのメインコンテンツといっていいほど扱っている芸備線、最近避けて通れない話題といえば乗客数の減少などに起因する存続議論でしょう。ネット上では毎日は言い過ぎですがよく見る内容、悲観的・批判的な言葉が並んでいる印象です。
それらの是非は置いておくとして、果たして実際にはどうなのかといったことを書かせていただこうと思います。
はじめに
芸備線(備中神代~広島、159.1km)のうち、輸送密度が2000人未満と発表されている区間は備中神代~下深川となっています。
2022年4月に発表されたJR西日本の『ローカル線に関する課題認識と情報開示について』と題した資料によると、1987年、2007年、2020年の平均通過人員(人/日、1日1kmあたりの利用客数を表す数値)、2017年-2019年、2018年-2020年の営業係数(100円を稼ぐのにかかる費用)は以下の通りです。
区間 | 営業キロ | 平均通過人員 | 営業係数 | |||
1987 | 2007 | 2020 | 2017-2019 | 2018-2020 | ||
備中神代~東城 | 18.8 | 504 | 110 | 80 | 4,129 | 3,994 |
東城~備後落合 | 25.8 | 476 | 21 | 9 | 25,416 | 26,906 |
備後落合~備後庄原 | 23.9 | 725 | 145 | 63 | 4,127 | 5,260 |
備後庄原~三次 | 21.8 | 1,257 | 364 | 348 | 871 | 1,052 |
三次~下深川 | 54.6 | 3,500 | 2,293 | 929 | 671 | 854 |
ここで留意して頂きたいのが、該当の区間内でもその利用状況には大きく差がある(利用客が減っていることは共通ですが)ということです。
ネット上では『「存続が危うい」芸備線』といったように該当区間全てを一纏めに扱うような記事が時折見られますが、個人的に危ういと思われるのは備中神代~備後庄原と私は考えていますし、実際にJR西日本も11月18日の記者会見において同区間について国に相談する旨を発表しています。
もちろん残りの区間が安泰である、このままで大丈夫であるということではありませんが、その点はきちんと区別して考えてやる必要があると思います。
また、2007年のデータを抽出したのはこの年の7月の改正で三次~広島間で運転されていた急行〔みよし〕が廃止されていたことから多少の変化があるのではないかと考えたこと、また手元に急行廃止直前の時刻表があることからです。
それでは上記にあげた各区間ごとに考えていきたいと思います。情報等間違いあればご指摘頂ければ幸いです。
使用車両は新見~備中神代~三次はキハ120形1両のみ、三次~下深川~広島はキハ40系が主力です。
備中神代~東城
時期 | 列車本数(平日) | |
2007年6月 | 上下6便ずつ | 下り始発は快速 |
2020年3月 | 同 | 下り始発は快速 |
岡山支社管轄の区間です。私が乗車したのは何年も前なので当時のことははっきりとは覚えていませんが、旅行記が残されていたので確認してみると乗りつぶし目的の乗客ばかりだったようです。私も同じ目的で行っています。つまり今と同じです。
利用した列車は現在も乗りつぶしによく使われている新見駅を昼間に出発する便でした。そのため沿線をじっくり見れていないようです。
2007年と2020年では列車の本数、時間ともほぼ変わっておらず、危機感もなく移り変わってきたといった感じでしょうか。2020年4月~7月には増便実験が行われ3往復増えました。
下り(新見→東城)であれば順に5時台の備後落合行き、7時台土休日運休の東城行き、・・・となっています。2022年現在も同様なので詳しくは時刻表をご参照ください。
東城~備後落合
時期 | 列車本数(平日) | |
2007年6月 | 上下3便ずつ | |
2020年3月 | 同 |
営業係数25,000超のワースト区間です。ちなみに2004年は上下5往復でした。手元で確認できる2007年以降ダイヤはほとんど変わっていません。
15年以上も3往復の時代が続いているのに、なぜ今まで利用促進議論が出てこなかったのか疑問です。
ここを活性化させようとするなら他の区間に投資してくれれば、と言うのが個人的な思いです。
私がこの区間に乗車したのは前述のとき、ここに乗るために旅行した覚えがあるので何も変わっていません。
変わったといえば備後落合駅を鉄道ファン向けにPRしだしたことくらいでしょうか。
1日1回秘境の駅に3両のキハ120形が一堂に会するなどとPRしていますが、逆に言えばそれだけ需要がないということの表れではないでしょうか。
備後落合~備後庄原
時期 | 列車本数(平日) | |
2007年6月 | 上下7便ずつ | うち1往復は広島~三次間急行〔みよし〕 |
2020年3月 | 上下5便ずつ |
先にあげた2区間はある意味ダイヤが定着してしまっていますが、こちらでは始発の繰り下げ、最終の繰り上げ、昼間の減便で2往復分が削られています。
私はこの区間に最近では2021年秋の平日、備後落合を17時台に出発する列車に乗りました。
途中の備後西城までは自分と運転士のみ、備後西城からは通学に使っている学生が少しばかり乗ってきました。
沿線にある学校の行事に合わせた指定日運転の臨時列車もあることから、備後西城~備後庄原は一定程度の需要はあると思われます。
備後庄原~三次
時期 | 列車本数(平日) | |
2007年6月 | 上下9便ずつ | うち1往復は広島~三次間急行〔みよし〕 |
2020年3月 | 上下7便ずつ |
運行形態は先ほどの備後落合~備後庄原と同様ですが、備後庄原~三次の区間便2往復が新たに設定されている分増えています。
乗車日は引き続き2021年11月の平日、改築工事が行われ立派になった備後庄原駅からはキハ120形1両を満員にするほどの学生が乗り込んできました。
途中の塩町(福塩線の起点、三次まで直通)、神杉、八次と三次市中心部に近い駅で乗降がありましたが、やはり三次駅を起点としている学生が一番多かった印象です。
備後庄原駅前~三次駅の間には路線バスも運行されており(芸備線より本数が多い)今までの区間よりは沿線が発展していること、JRが国に相談する対象からこれより先外れていることから学生需要が主要となっている区間と言えるでしょう。
三次~下深川
時期 | 列車本数(平日) | |
2007年6月 | 下り34本、上り36本 | 急行〔みよし〕:下り4便、上り3便(停車駅:三次、甲立、向原、志和口、広島 ただし一部列車は下深川、安芸矢口、矢賀にも停車) 快速〔みよしライナー〕:下り2便、上り2便(停車駅:三次、甲立、向原、狩留家~広島の各駅) 快速〔通勤ライナー〕:下り1便、上り2便(停車駅:三次~狩留家の各駅、下深川、広島) |
2020年3月 | 下り33本、上り34本 | 快速〔みよしライナー〕:下り4便、上り4便(停車駅:三次、甲立、向原、志和口、下深川~広島の各駅) |
今までに比べると格段に本数が増えます。三次駅のほかに途中の志和口、狩留家を始発・終着とする列車があります(近年のダイヤ改正で減便となりました)。かつては山陰方面を結ぶ急行列車も存在しましたが今では快速のみとなり、地域輸送を主体としています。
この中でも特に狩留家~下深川は沿線に住宅地が広がることから利用客も挙げられている区間の中では他に比べて多く、減便前は日中30分ヘッドのダイヤ(現在は60分)が組まれていました。
本数から分かる通り需要は見込める区間であり、営業係数も他と比べればずいぶんましな数値となっています。西日本豪雨で被害を受け長期運休となったことなども影響しているのではないかと思ってはいるのですが、十分に改善の余地があると思われます。
最近では空いたダイヤに団体列車を運転するなど、活性化に向けた取り組みが見られるようになり喜ばしいことです。
ただ、呉線用のetSETOraを基本使うようなので、ぜひ芸備線専用の新しい観光列車を作ってほしいところです。
いずれの区間にも共通することなのですが、沿線自治体の熱心さというものはあまり伝わってこないように思えます。廃線を前提にしている、話し合い拒否などと言っていますが印象が悪くなってしまいます。
かつては高速化という案も出てはいましたが結局立ち消え、そこから何も手を付けてこなかった結果今のこの姿があるように思えます。
存続が最高の形ですが、一部区間が無くなってしまう可能性も十分に高い、全体としてはそういう岐路に現在立たされているといえるでしょう。
これからも注視していきたいと思います。
ご覧いただきありがとうございました。
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